私が時間どおりに待ち合わせ場所の喫茶店に着いた時、岩崎はもう店の中でコーヒーを飲んでいました。
この店は岩崎が経営している輸入物のインテリアショップの近くで、彼と会う時は殆どこの場所を待ち合わせ場所にしているのです。
「私よりも先に岩崎さんが来ているのは珍しいですね」
「店が暇ですからね。サラリーマンが羨ましい」
「してみますか、サラリーマン」
無愛想な私の返事に、彼は大袈裟な素振りで返します。
「由香里とは頻繁にメールのやり取りをしてますか?」
「ええ、もちろん。姿の可愛らしい女性は文章も可愛いですね」
私をからかっているのか、どこまでが本気なのか… 未だに私は彼の本心が読み切れません。妻を与えた男に対し、根底では信頼していながらも、苛立ちを感じることもあるのです。
由香里と岩崎が互いにメールで連絡を取り合うことについては、私はあえて認めていました。どんなやり取りをしているのか、私が妻に聞いた時にはきちんと答えることが条件です。
大まかな内容は妻から聞いていますが、彼女の携帯の中を隠れて覗き見ることはしていません。
由香里を信じているのはもちろんですが、彼女を束縛し過ぎることが、私に対する秘密を作る切っ掛けになりはしないかと思えたのです。
なかなか例の話を切り出さない岩崎に対して、私の方から問い掛けました。
「それで、例の少年… 祐希くんでしたっけ… 彼からの返事はどうだったんですか?」
「相変わらず川島さんはせっかちだ。まあ、少し落ち着きましょう。コーヒーでも飲みながら」
私は岩崎に言われて、まだ何も注文していないことに気付きました。慌ててメニューを広げ、最初に目にとまったストレートコーヒーを店員に頼んだのです。
「もちろん彼には言いましたよ。綺麗な人妻さんとセックス出来るけど、どうするって」
岩崎は彼に対してそんな不躾な聞き方をしたんだ…
「それで彼は何て?」
「驚いてましたよ。最初は信じられないみたいでしたけど」
コーヒーを飲みながら岩崎は話を続けます。
彼は最初は驚きながらも、セックス経験が無いから年上の女性を満足させることは無理だと答えたそうです。
岩崎が、それを気にする必要はないことを伝えてから、やっと落ち着いて話を聞くようになったとのことでした。
「私のことを言いましたか?」
「もちろんです。その女性の夫が見ている前でセックスをすることが条件だと」
「それで?」
「まず、奥様が他人とセックスすることを、ご主人が許していることに驚いていました。何故って言葉を何度も言いましたよ。そしてその姿を見たいと願っている… それが条件だなんて、彼には理由を納得出来ないみたいでした」
岩崎は途中まで言いかけると、何気なく手元の時計に目を向けます。
彼にとっては、確かに理解出来ないことの筈です。大人でさえ、そのような行為があることすら受け入れられないのですから。
岩崎は突然立ち上がると、ドアが開いた入り口に向かって手を振りました。
店に入ってきた高校生くらいの少年が岩崎を見つけて、こちらに近づいてきます。
まさか彼が祐希という少年?…
岩崎が言っていた18才の大学生とは彼のこと? …
今夜、この場に来るのなら、なぜ前持って教えてくれないんだ…
「岩崎さん、もしかして待ちましたか? バイトのローテの引き継ぎが長くなっちゃって」
彼は無邪気な笑みを浮かべながら岩崎に言葉をかけます。そして脇にいる私に気付くと会釈をしながら挨拶をしました。
「今晩は、森野といいます、よろしくお願いします」
初対面の礼儀をわきまえた若々しく爽やかな笑顔には、引け目などは全くありません。
「こっちも来たばかりだよ。まあ、座りなよ」
岩崎は彼を私の向かいに座らせます。
「こちらの方がこの前話した川島さんだよ」
「え… えっ?」
少年は驚いた顔で私を見ます。彼も私が来ることを岩崎から知らされていなかったのです。
先程までの彼の笑顔は消え、急に緊張した表情で俯きます。岩崎から誘いを受けた性の体験に対する期待が、突然に予期しない現実味を帯びたことに戸惑っているのでしょうか。
18才という年齢よりも彼が若く見えるのは、目鼻立ちの通った端正な顔立ちが透明な清潔感を放っているからなのでしょう。純真で無垢な容姿だからこそ、幼さの残る内面の未完成さが際立つのかもしれません。
身長はそれほど高くなく、それも彼が少年のような姿を残す理由の一つです。
霞の奥に垣間見る遠景のように、彼と由香里が重なり合いながら交わる姿が妄想の空間に浮かびます。
妻を与える優位の側なのに、あどけない若者のように私自身の鼓動が高鳴りました。
私は店員が持ってきたコーヒーを手に取り、自分の動揺を二人から隠すようにゆっくりと飲みこんだのです。
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